上着に包み込まれるように抱かれその近さに胸が高鳴る。
背中に感じるぬくもりに、あの柔らかな香りが鼻をくすぐる。
アヌビスは奇声を上げ、手を出したアポロンを思い切り引っかいた。
そう言うとぐっとペダルを強く漕ぎスピードが加速していく。
道が舗装されているわけではなく、小さな砂利を踏み、自転車がガタガタと跳ねる。
言葉と共に彼の手が私の肩に置かれ動きを制される。
不意にお互いの手がふれあい、妙な緊張が生まれる。
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どちらも手を離すことが出来ずどうしていいかわからない。
強い力に抵抗できず、彼の胸へと顔をぶつける。ふと見上げると、目の前に月人の顔があった。
私の肩に手が回され、そこから逃げることができない。
妙な断り方だった。入部を拒否するなら、単純に1人がいいとか言えばいい。なぜ不幸になるなどと返したのだろうか。
彼は私の手を握る。 さらに、それを強く引っ張って…… 勢いよく引き寄せられた私は、 彼の胸に顔をぶつけた。 もう片方の手が私の背中に回される。 ぴたりと重なり合うお互いの体。
怒号が響いた途端、アポロンは光を放つ。
以前に遭遇した姿。
真っ赤な光をまとった神々しい外見は、 太陽神本来の姿だった。
それはつまり…… 初めて、本来の彼と対面しているということ。
荘厳な雰囲気をまとう男こそ、 冥府の王ハデスなのだ。
そのとき、月人に変化が起きた。 体中から光が溢れ、その姿を変貌させる。
抑えられていた力が暴走したというのか。
それは、一瞬の出来事だった。
突如として姿を変えた尊が飛び立ち、 目にも止まらぬ速さで私へ追いつき、 捕らえようと腕を掴んだ。
しかし、腕を掴まれた途端、 強く締め付けられる感覚がして ズキッと痛みが走った。
思考も言葉も失った。
目の前にいるのは…… いつもと違うバルドルの姿。
それが本来の神の姿であると 認識するのにしばらく時間がかかった。
恐ろしいまでの力を肌で感じる。
その神々しさに、目がチカチカする。 彼のまとう空気も気高さを感じる。 これが、ロキさん……? 見知らぬ格好のロキは 空中にすっと浮き始め、 眼下にいる私に向かって叫ぶ。
突然、アヌビスの姿が変わる。
その叫び声と共に、 トトの姿に変化が起きた。
目をあけていられないほどの眩さ……
全身から強い力が溢れ出ている。
返事と共にアポロンは壇上へ移動し、 学園長であるゼウスと向かい合った。 表情はなぜか互いに険しい。
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