上着に包み込まれるように抱かれ
その近さに胸が高鳴る。
背中に感じるぬくもりに、
あの柔らかな香りが鼻をくすぐる。
アヌビスは奇声を上げ、
手を出したアポロンを思い切り引っかいた。
そう言うとぐっとペダルを強く漕ぎ
スピードが加速していく。
道が舗装されているわけではなく、
小さな砂利を踏み、
自転車がガタガタと跳ねる。
言葉と共に彼の手が私の肩に置かれ
動きを制される。
不意にお互いの手がふれあい、
妙な緊張が生まれる。
……………………
……………………
……………………
どちらも手を離すことが出来ず
どうしていいかわからない。
強い力に抵抗できず、
彼の胸へと顔をぶつける。
ふと見上げると、目の前に月人の顔があった。
私の肩に手が回され、
そこから逃げることができない。
妙な断り方だった。
入部を拒否するなら、
単純に1人がいいとか言えばいい。
なぜ不幸になるなどと返したのだろうか。
彼は私の手を握る。
さらに、それを強く引っ張って……
勢いよく引き寄せられた私は、
彼の胸に顔をぶつけた。
もう片方の手が私の背中に回される。
ぴたりと重なり合うお互いの体。
怒号が響いた途端、アポロンは光を放つ。
以前に遭遇した姿。
真っ赤な光をまとった神々しい外見は、
太陽神本来の姿だった。
それはつまり……
初めて、本来の彼と対面しているということ。
荘厳な雰囲気をまとう男こそ、
冥府の王ハデスなのだ。
そのとき、月人に変化が起きた。
体中から光が溢れ、その姿を変貌させる。
抑えられていた力が暴走したというのか。
それは、一瞬の出来事だった。
突如として姿を変えた尊が飛び立ち、
目にも止まらぬ速さで私へ追いつき、
捕らえようと腕を掴んだ。
しかし、腕を掴まれた途端、
強く締め付けられる感覚がして
ズキッと痛みが走った。
思考も言葉も失った。
目の前にいるのは……
いつもと違うバルドルの姿。
それが本来の神の姿であると
認識するのにしばらく時間がかかった。
恐ろしいまでの力を肌で感じる。
その神々しさに、目がチカチカする。
彼のまとう空気も気高さを感じる。
これが、ロキさん……?
見知らぬ格好のロキは
空中にすっと浮き始め、
眼下にいる私に向かって叫ぶ。
突然、アヌビスの姿が変わる。
その叫び声と共に、
トトの姿に変化が起きた。
目をあけていられないほどの眩さ……
全身から強い力が溢れ出ている。
返事と共にアポロンは壇上へ移動し、 学園長であるゼウスと向かい合った。 表情はなぜか互いに険しい。