教室の窓から見える校庭は、強い陽光を受けて白さを増していた。
私の肌に触れる空気は熱く、耳にはかすかにセミの鳴き声が届く。
……箱庭の季節が夏へと変わりつつあった。
私が神様たちの学園に入学して数ヶ月。
時間の流れとともに初々しさも消えて、ここでの生活に前ほど違和感を覚えなくなってきた。
「来い、草薙」
と、授業終了と同時にトトに呼ばれて教壇へ急ぐことも日常の一部だった。
「トト様、ご用ですか」
「頼む」
そう短く告げる彼の視線は、文字で埋め尽くされた黒板。
「わかりました、消しておきますね」
依頼の内容を難なく理解できるのは、これが幾度となく頼まれる仕事だから。
「他には何かありますか?」
尋ねると、トトの視線へ各机に配布されたプリントに移った。
「放課後までに回収して私のもとへ届けろ」
「はい、任せてください」
返事と一緒に頷いてみせると、彼は満足した様子で教室の入口へと向かい
……思い出したように私の方を振り返った。
「大切なことを伝え損じていた。放課後は空けておけ、手を借りたい」
詳細には触れずにそれだけ言うと、彼は今度こそ教室を後にした。
「放課後? 何があるんだろう」
私は少し考えてみるけれど、思い当たるようなことはなかった。近いうちに行事をする予定もない。
「……あなたは信頼されているね」
突然そんな言葉が聞こえて私の思考は中断された。
振り向けば、バルドルが感心したように私を見ていた。
「信頼と言いますと?」
私は話についていくことができず、首を傾げる。
「カドゥケウス先生はあなたにしか用事を言いつけないでしょう? だからそうなんじゃないかなって」
続きは電撃Girl's Style7月号にて御覧ください。