「行ってきます……」
早朝。少々重い気持ちを引きずりながら、身支度を終えた私は寮の自室を後にした。
空には暗雲が立ち込めて、春の柔らかな日差しを遮っている。
肌に触れる風は少し冷たく、学園敷地内の鮮やかな草花を寒々しく揺らす……
ふと景色の中に人影を見つけた。
「……尊さん?」
学園に召喚された神様の1柱で日本神話のスサノオ。
学園内では人間文化を学ぶ意味も込めて、
戸塚尊という名前になっている。
「尊さん、おはようございます」
「……ん?」
挨拶を受けて彼は私の存在に気づき、すぐに顔をしかめた。
「雑草の分際でおれに話かけんじゃねぇ」
「す、すみません!」
彼は不愉快な表情を浮かべて去ろうとする。
「ま、待って……!」
声を上げてみるけれど、彼が立ち止まることはなかった。
「……駄目だ、全然」
彼は最近の悩みの種だった。
入学当初からあの調子で、他の神様とは違い成長があまりない。
調べたところによると他の神話とは違って
日本神話では人間の創造に関する記述がないほど、
人の存在は大きく見られていない。
そういうこともあって尊も私の存在を認めてくれていないのだろう。
「卒業のためにも色々と知ってもらわないといけないのに」
これで何度目になるであろう、私は頭を抱えた。
「おい、大丈夫か?」
「え……?」
誰かから声をかけられる。
「あ、ハデスさん」
振り返るとそこにはギリシャ神話の冥府の神ハデスが立っていた。
続きは電撃Girl's Style2月号にて御覧ください。