月人編

散り始めた桜は夕刻の少し冷えた風に飛ばされて学園の敷地を悠々と舞っていた。  
春の終わりを感じる感傷的な景色……  
裏腹に生徒会室では実に賑やかな勉強会が行われていた。
「らぁーめんだって! らぁーめん!」  
人間の食文化に興味を持ち、購買部で大量に食べ物を買い占めてきたアポロン。
彼が高々と持ち上げたそれはただのラーメンではなく……
「……会長。それはカップラーメンという食物です」  
私が指摘する前に月人がパッケージの文字を眺めながら訂正した。
「昨日食べた普通のラーメンとは違って、こちらは乾燥しているようだね」  
カップラーメンの蓋を外して観察しながらバルドルはそう言い、小首を傾げる。
「しかし奇妙な形状だね……これは食べられる気がしないな」
「あ、それはですね……」
「失恋で心が乾いちゃったんだよ!」
「……え?」  
アポロンの思わぬ解釈に、私は訂正を忘れた。
「人が創造したものにも心は宿るんだね。アガナ・ベレアは物知りだ」
 しかもバルドルは納得してしまっているし。
「らぁーめんは昨日食べたことだし、他の食べ物をチェックしようか! チェックチェック♪」  
即興のメロディを口ずさみながら、アポロンは買い物袋から新たな商品を取り出した。
「なになに、これは……しぃーすぅー?」
「あっ! お寿司……!」  
疑問符を浮かべるアポロンとは対照的に、バルドルはハッとした様子だった。
「バルドルさん、ご存知なんですか?」
「もちろん! 様々な文化を個人的に学んでいるのだけれど、今は日本がブームでね……! 
お寿司は伝統的な食べ物なんでしょう?」
「はい、その通りです!」  
私は笑顔で言葉を返す。彼が自発的に勉強していることが嬉しかった。
「あ、わさびも買ってきたんだね! 合わせて食べると美味しさが増すそうだよ」  
子供のように目を輝かせながらバルドルはそう言って『わさび』のチューブを手に取り……
「な、何してるんですか……!」  
寿司の上にぎゅぅ~とソフトクリームを彷彿させるわさびが載せられた。
「さあ、試食してみよう」
「わぁーい! 食べる食べるっ!」
「……頂きます」  
止める間もなく、神様たちは異常な量のわさびと共に寿司を口の中へと放り込む!  
そして……

続きは電撃Girl's Style1月号にて御覧ください。